知らなかった!正しいエアコン容量の選び方

 

ある家電量販店でのやりとり。

 

 

はい、アウト。

なにがどうダメなんでしょうか?

 

考えてみてください。そもそも、26畳用のエアコンってなんでしょう?どんな家の26畳なんでしょうか?冬、スキマ風だらけのあの実家のような、断熱も気密もあったもんじゃない家の26畳?しっかり断熱され、しっかり気密がとれている家の26畳?どちらも同じ「26畳」の広さですが、全く同じ扱い?そんなはずありませんよね?

本当に見るべきは、「定格冷房出力」「定格暖房出力」です。エアコンの冷やす力、暖める力を示す数値で、この数字が大きければ大きいほど、部屋を冷やしたり暖めたりする力が強いことになります。

 

ここで唐突に、家の断熱性能を示す数字「Q値」がとても便利です。というのも、Q値に床面積と温度差を掛けると、熱量が計算できるんです。

「Q値」は、室内と外気の温度差が1°Kのとき移動する熱量を床面積で割ったものです。
  たくさん熱が移動してしまう = 断熱性能が低い
  移動する熱量が小さい = 断熱性能が高い、
ということで、値が小さければ小さいほど断熱性能が高いことになります。

そして、ここ、とても大事なところですが、2020年にはQ値が2.7よりも大きい住宅はほぼ建てられなくなります。すべての新築住宅のQ値が2.7よりも小さくなることが確定しています。

 

以上を前提に、条件は下記にて24畳のLDKに必要なエアコンの容量を計算してみます。

24畳 = 40㎡

冬の最低気温の平均 = 5℃

冬の室温 = 21℃

Q値 = 2.7 [W/㎡・K]

 

熱損失 = 2.7 x 40 x ( 21 ー 5 ) = 1728  [W]

これは、エアコンをつけっぱなしで動かす場合に必要な定格暖房出力です。1728[W] = 1.7 [kW]。下の表は、Panasonicのカタログから抜粋した、各機種の定格冷暖房出力と、価格.comでの最安値をまとめたものです。この表によれば、24畳の部屋に必要なのは、定格暖房出力が最も小さい2.5kWのエアコン = 6畳用エアコン、ということがわかります。

 

これを見れば、冒頭の、断熱性能を確認すること無く新築の家の24畳の空間に26畳用エアコンを提案することが、どれだけズレた提案か、わかると思います。逆算すれば、26畳用エアコンが出せる熱で暖められる面積は、

暖房面積 = 9500 ÷ 2.7 ÷ ( 21 ー 5 ) = 219.9 [㎡]

220㎡ ≒ 132畳分の空間を暖める程の熱を供給することができるんです。それだけ過剰にパワフルです。過剰にパワフルな事は極端なデメリットではないですが、6畳用エアコンで十分だったものを26畳用エアコンを買ってしまった場合、

262,170 [円] ー 159,831 [円] = 102,339 [円]

10万円も余計に支払う事になります。これはさすがに極端なデメリットです。

 

ちなみに、6畳用エアコン一台で賄える面積は、

暖房面積 = 2200 ÷ 2.7 ÷ (21-5) ≒ 50 [㎡] ≒ 30畳

2020年以降の家(断熱等級4以上)なら、最低の断熱レベルでも、6畳用エアコン1台で30畳までの広さを暖めることができます。一般的な家で30畳よりも大きな空間はなかなか無いので、大抵の場合「6畳用エアコン」一台で事足ります。

 

「**畳用」という表記がどんな家をベースに決められたものなのかを考えず、ただ「そう表記してあるから」という理由で結果的に過剰な空調機器を勧めることを「仕方がない」と捉えるのか「勉強不足」と考えるのか、それは個人に依るところかもしれません。ですが、いずれにせよ損をするのは購入する人。

「知らない」ことをが原因で損するのは、避けたいですね。

 

 

のゴロウ

コラボハウス一級建築士事務所

16 Replies to “知らなかった!正しいエアコン容量の選び方”

  1. 現在二階(約18坪)を8畳用エアコン22°設定で運転しています。各部屋の温度は20°くらいです。(外気温-3°でも)
    ここからが質問となりますが、かりに14畳エアコンに変えた場合、18°設定で20°まで温めることは可能なのでしょうか。
    家の性能にもよると思いますが、家を20°キープしたい場合、(外気温-3°)どのくらいのパワーのエアコンが一番電気代が安いのかを知りたかったのです。14畳一台よりもしかしたら、
    6畳用2台のほうが電気代安いなんて事もあるのでしょうか。
    よろしくお願いします。

    1. コメントありがとうございます!

      「14畳用エアコン1台よりも6畳用エアコン2台の方が電気代安いなんて事があるのか?」
      十分あり得ます。
      ただし、間取りや室内の空気の流れにもよりますし、家自体の断熱性能にも大きく左右されますので一概にコレ!といった結論は示しにくいです。

      設定温度は、超ザックリ言えば、エアコン本体で検知した室温を受けて、どのくらいの熱量を供給すべきか?をエアコンが決定する基準をエアコンに提示するものです。
      例えば、24℃設定で、エアコンが検知した室温が24℃なら、ああもう必要ないなと運転をほぼ止めます。
      検知した室温が16℃なら、全力で動きます。(たぶん最大出力)
      検知した室温が23.5℃になると、エアコン氏はそろそろ弱めてもいいかしらと思い始め、ノロノロ運転します。

      エアコン氏は、運転止める、ノロノロ運転する、全力運転する、というように、自分の出力を変えます。
      設定温度を18℃にすれば、18℃になったらエアコンは運転を止め、室温が下がってきたら運転再開し、と動作するはずです。
      設定温度は、暖め過ぎを防ぐためのものと考えるとよいかもしれません。
      したがって、「18°設定で20°まで温めることは可能なのでしょうか。」という質問に対しては、難しい、という答えになります。

      容量の大きいエアコンを使うと、供給する熱量も大きいため、急激に室温をあげることができるようになります。
      すると、18℃を狙って熱を大量供給していて、エアコンが18℃を検知して動きを止めても、勢い余って19℃まで室温上がっちゃった、みたいなことは十分ありえます。
      しかし、室温は非常に不安定なものになることが想像されます。

      容量の小さいエアコンを使うと、供給できる熱量は少ないため、設定温度まで到達するには時間がかかります。
      ですが、ちょっと室温が下がったら再始動して熱を供給、と動いても、急激に温度は変化しないため、
      室温はより安定するでしょう。

  2. 熱損失の計算について
    わかりやすい算式ですが、面積の所は、高さ(容積)は考慮しないのでしょうか?

    1. ご質問ありがとうございます。

      容積を考慮する必要があるのは、エネルギーの変化量と温度変化を関係づける場合です。
      ここでは、室温を21℃から変化させない前提で熱損失と熱供給の収支を考察しているため、体積(気積)を考慮する必要がありません。

      例えば、室内から1000Whの熱が奪われたとき、室温は何度低下するか?と問われた場合は、室内の気積と空気の比熱容量が必要になります。

      厳密な議論になれば、当然気積やら室内の熱拡散やらを考慮しなければならないのでこの記事で提示した計算方法自体が破綻しますが、概算でだいたいこのくらい、を検証するにはちょうどいい方法だと思います。

  3. 拝見していて興味がわいてきましたので教えてください。
    この熱損失の計算はエアコンを長時間運転をしていて設定温度を維持し続ける場合のエアコンの能力のことだと思うのですが違うのでしょうか。
    24畳の部屋を6畳用エアコンで十分だということですが、計算結果は1.7KWなので現在価格.comでの最安値RAS-AJ22H(日立)冷房能力2.2KW暖房能力2.2KWでも大丈夫でしょうか。
    窓の大きさ、数、出入り口が引き違い戸とかドアそれの数とかは家のよって違うと思うのですがどのように計算すればいいのでしょうか。
    また、外気温5℃でエアコンのスイッチをいれて設定温度を21℃とした場合、設定温度に到達する時間は計算できるのでしょうか。
    少し質問がチグハグになってわかりづらいと思いますがよろしくお願いいたします。

    1. コメントありがとうございます。
      まず、ご認識のとおり、この記事で出している数字はエアコンを長時間運転することが前提です。

      「RAS-AJ22H」でも大丈夫かどうか、といえば、温める/冷やす性能としては問題ないです。
      ただし、家の断熱性能が一定以上(Q値2.7/Ua値0.87 よりも高性能)であることが大前提です。
      また、上記機種の場合は除湿時に困るかもしれない、という感じでしょうか。梅雨時に湿気だけ下げたい、となれば、日立なら「からっと除湿」機能が搭載されている機種を買うと良いです。

      ここで断熱性能は、
      ・断熱材の種類/厚み
      ・使っているサッシ/ガラスの種類
      ・壁/窓の面積
      から計算する必要があります。
      例えばドアの数や種類は、家全体の断熱性能には影響しませんが、窓の大きさや数や種類は大きく影響してきます。

      LDKだけのことを考えれば、家全体から逃げ出ていく熱量に比べて小さくなると考えられるため、家全体の断熱性能値とLDKの面積で計算しています。
      結果的に熱の逃げを過大評価することになるので、より快適さを確保することになる、という考えです。

      設定温度に到達する時間が計算できるかどうか、ですが、概算することは可能です。
      エアコン内部の制御がどうなっているかよく分からないので詳細な計算はできませんが、エアコンの出力と、室内の人や家電から出る熱量と、熱伝導や換気で家の外に逃げていく熱量を足し合わせていけば、ざっくりですが計算はできるでしょう。部屋の体積、壁床天井の材質/厚みも大きく影響してくるので、それら数字を拾っていくのは、面倒な作業ですが大切です。

  4. この計算では、床面でしか熱交換していない気がするのですが、気のせいでしょうか?実際には床だけでなく壁や天井も熱交換がされているので、もっと能力が必要になるかと思います。
    仮に、熱56さん方式で昭和55年の省エネ基準の寒冷地域向け(厳しめ)のQ値:9 で置き換えても、5.76kWで十分という計算になります。これは昭和55年の寒冷地域でも、5.6~6.3kWクラスあれば26畳がまかなえたということになり、現実的ではないと思いますが、いかかでしょうか。

    1. ご質問ありがとうございます。

      Q値とU値を混同されているかもしれません。
      床面だけで熱交換しているとイメージされたのは、床面積を掛けているからだと思いますがいかがでしょうか?

      家全体の熱損失を床面積で割ったものがQ値です。そのため、Q値に床面積をかけると、その部屋の熱損失が出ます。あくまでも対象の家の熱損失のめやすとなる数字であって、直接的な物理現象を示す数字ではないため、そのような混乱がおきます。

      イメージされているのはおそらくU値です。
      熱損失量を表面積で割るとU値がでます。例えばU値に床面積をかけると、おっしゃるように、床面での熱交換のみが出ます。

      建築の世界では、使いやすい、とか、慣れているから、とかそういう理由なのか、床面積あたりでの数字をよく見ます。

      S55年基準のQ値が9というのは、すみません、なんのことを指しているのか分かりませんでした。
      厳しめの、というのも、申し訳ありませんがどのような状況を指しているのか把握できませんでした。

      厳しめのQ値が9、というのがよく分かりませんでした。S55年基準の家の26畳の部屋であれば、気密さえ取れていれば熱量的には大丈夫でしょう。ただし、室温は上がりますが窓面の温度が低いので、体感温度は下がります。記事で書いているのはあくまでも、どの程度の熱供給で室温を上げられるか一点なためです。

  5. こんにちは。
    勉強になりました。
    冷房の場合も同じように(6畳用のエアコンで24畳)考えてもいいのでしょうか?
    冷やしすぎず、湿度を下げる、というぐらいの考えですが。
    よろしくお願い致します。

    1. 返信が大変遅くなり申し訳ありません。
      今更、、とは思いますが、コメントさせて下さい。

      温める、冷やす、という点だけでいけば6畳用のエアコンで24畳の広さは余裕でしょう。暖房に限らず冷房も、です。
      ただし、家の断熱性能が十分に高い場合に限って、ということになります。

      目安の一つとして、窓がアルミサッシの場合は6畳用エアコンでは足りない可能性があります。
      窓がアルミサッシだった場合でも、エアコンを長時間ON(24時間連続など)する運用であれば、十分温めること/冷やすことができます。
      ご参考まで。

  6. 24時間換気など踏まえてもその様な理論で成り立つのでしょうか。
    LDKの場合などは居室とキッチン部分にも給気があって特に空気の流れが多いと思うのですが。調理中等の強い排気は論外ですか?
    知識不足で申し訳ございませんが、2020年以降の家は断熱だけでなく、熱交換システムなども義務化されるのでしょうか?

    1. まず最初に、2020年から義務化されるのは「住宅の断熱性能がどの程度なのか説明すること」で、住宅性能についての義務化の話はなくなりました。

      キッチンなどの強力な換気は、たしかに室内の熱を外に逃がしますが、常に稼働するものではないため、計算には含んでいません。
      また、24時間換気による熱損失はおおよそ含んだ上での計算なので、こちらについてはそのまま読んで頂いて構いません。

  7. コメント失礼いたします。
    エアコンの新規取付を検討しております。
    条件は北海道札幌市
    平成6年築木造戸建て
    南西向き
    LDK15畳程度(隣に和室6畳)
    冷房使用がほとんどで暖房は使わない予定

    古い家なので今の家ほど断熱は良くないと思います
    量販店では14畳用(冷房定格4kw)の機種を進められましたが、こちらを拝見したところオーバースペックかもしれないと思いコメントさせて頂きました。
    宜しくお願いします。

    1. ご質問ありがとうございます。
      私も2年ほど札幌に住んでいましたので、冬の厳しさはもちろん、夏も涼しいってわけではない事も理解しているつもりです。

      ただ、札幌の気温は最高でも35℃程度なので、冷房のみの利用を想定されているのであれば、計算上8帖用や10帖用でも十分事足りそうです。
      ただ正直なところ、サッシ性能を含め、具体的な住宅性能が分からないと断定もしにくいことをご理解下さい。

      量販店の店員さんが14帖用のエアコンを勧められたのは、理解できます。
      15畳くらいの広さのエアコンとして、18帖用等の大きめなものを進めることが多いことを考えると、良心的な方だったのかもしれません。

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